(1)スペック
ざっくり言うと、旧型日産リーフのモーターとバッテリーを商用バンのNV200バネットに移植した、1ナンバーの貨物自動車です。NV200バネットはニューヨークのイエローキャブにも採用されている世界戦略車で、コンパクトなボディに広い貸室を備えており、キャンパー仕様に改造するオーナーも多いとのこと。
最高出力は80kW(109馬力)、最大トルクは254N・m(25.9kg-m)。リチウムイオンバッテリーは総電力量が24kWhで、新型リーフの40kWhと比べると容量不足の感は否めません。満充電での走行可能距離は、カタログデータで185~190km、実際は150km前後ですかね。僕は一般道で2時間程度走ったら急速(僕は休息)充電、というペースをキープしています。
しかし、env200バンには新型リーフにもない素晴らしいデバイスが装備されています。それは「バッテリークーラー」です。現時点でのEVの弱点を2つ挙げるとするな らば、走行可能距離とリチウムイオンバッテリーの劣化でしょう。特に初期型リーフでは、バッテリー劣化による「セグ欠け(総充電量の低下)」が起きている個体もあるそうです。このバッテリー劣化の原因となるのが、充電時(特に急速)に発生する高熱です。その高熱対策が強制冷却のためのバッテリークーラーというわけです。米国テスラモーターズのEVには、このバッテリークーラーが標準装備されています(ま、一千万円の車ですもんね)が、実はリーフには新型・旧型を問わず、高コストのバッテリークーラーは未装備なんです。(2018年時点)
では、なぜenv200にはこの贅沢なバッテリークーラーが装備されているのでしょう。ここからは僕の想像なのですが、env200が「商用車」、つまり働く車だからだと思います。働く車に必要なのは、道具としての「効率性」と「耐久性」です。もしこの車が酷使により2,3年でバッテリーがヘタって使い物にならなくなったとしたら、世界のEVリーダーを目論む日産・ルノー連合にとって大きなマイナスイメージになりかねませんよね。そこで、「えーい、採算度外視だ、バッテリークーラーつけちゃえ!」との英断がゴーンさんから下ったのかな、などと思っています(外れてるかな?現在はenv200は製造休止中だしな。ま、2,3年乗れば結果がわかるでしょ)。
僕のenv200は、とある日産ディーラーでデモカーとして使われていた、走行3000㎞ の新古車です。価格はなんと、新車価格の3分の1! 限りなく怪しげと言えばそうなのですが、上記のメカニズムにほれ込んでしまったからには、買うしかないでしょ、ね。
(2)長所・得意なこと
①一般道での加速性能

カタログデータでの馬力の数値は平凡と思われがちですが、エンジンと違い、モーターはどんな速度域からも最大トルクを発生させることができます。その加速のスムースさとレスポンスの良さは、6~8気筒の大排気量エンジン車に乗っているかのようです。
②コーナーでの旋回性能
重いバッテリーモジュールを貨室の床下に敷き詰めたことで、トールサイズミニバンとしては画期的な低重心を実現しています。細いエコタイヤを履いているとは思えないくらい、コーナーではドライバーの思い通りのラインをトレースしてくれます。
③超低ランニングコスト
「はじめに」の項で書いたとおり、ZESP2加入により電気代は月額2,000円のみ、のはずだったのですが…。なんとキャンペーン期間に引っ掛かり、2年間はその月額2,000円も無料とのこと! なんて太っ腹なんだ日産!
また、回生ブレーキシステムにより、ほとんどフットブレーキを使わないので、ブレーキパットはほぼ交換の必要はない(と思います)し、エンジンがないのでオイルやラジエター液などの定期交換もありません。まあ、当然電気系統のトラブルは致命的になるので、定期点検にはきちんと出しますけどね。あとかかるのは、ワイパーブレード交換やウォッシャー液補充などの消耗品代くらいかなあ。あと、1ナンバーなので車検は毎年になりますが、車検コストはかなり節約できるはずです。
④車中泊可能な広いカーゴスペース

僕のenv200は5人乗りですが、納車されたその日のうちに後部座席を取っ払い、ネットで購入したシングルサイズの脚付きマットレスと折り畳みデスクを貨室に設置しました。脚付きマットレスの下部には、押し入れ収納用の引き出しboxを4つ置きました。それだけで、はい、簡易キャンパー仕様の出来上がりです(ちなみに、取払った後部座席は車検を受ける際には戻さないと通りませんけどね)。
⑤室内のパワープラグ(AC電源コンセント)
前席下部と後席下部の2カ所にAC電源コンセントがあり、運転席のボタン1つで合計1,500Wまでの電力が出力可能です。車内では停車していても、一般家電が普通に使えちゃいます。また、モバイル環境を整えてやれば、車中泊だけでなく移動型ワークステーションの機能も備えていることになります。使い勝手の可能性が広がる車ですね。
(3)短所・苦手なこと
①ストレスになる走行可能距離
運転中はどうしてもディスプレイのスピードメーターよりもリアルタイムで減っていく走行可能距離に目がいってしまいます。これが25kmを切ると、ディスプレイに「充電してください」のアラートメッセージが点灯します。「次はどこで充電するか」を常に頭において運転する習慣をつけないと、最悪「電欠」という悲惨な結果に…。まあ、それも含めて「楽しむ」という心掛けが必要な車ですね。
②わずらわしい充電 充電ポイント探しは、カーナビで簡単にできますが、充電がすんなりといく場合ばかりではありません。ガソリンスタンドの給油機のように充電器が複数あるポイントは稀です。先着車がいれば当然待ち時間が発生します。僕は経験ありませんが、やっと充電ポイントにたどり着いたら、充電器が壊れていた、撤去されていた、メンテのために「お休み」だった、などということもあるそうです。充電時間は急速充電で30分程度、普通充電だと5時間以上かかることも…。
ちなみに、全国の日産ディーラーさんにはたいてい急速充電器が設置されています。充電器前に車を乗り入れ、受付のおねえさんに「すみません、充電させてください」と声をかけると、ほぼ必ず笑顔で「終わるまでこちらでお待ちください」と席に案内され、飲み物とお菓子をサービスしてくださいます。まるでカフェ代わり、本当にありがたいです。
③高速道路の巡航
高速巡航は本当に苦手です。加速が悪いわけではありません。バッテリーの電気が面白いように減っていきますし、なんと時速130kmあたりでスピードリミッターが作動します。僕の旅の性格上、高速にはめったに乗りませんけどね。
④ヒルクライム
高速巡行と同様に、上り坂でも電気が面白いように減っていきます。逆に下り坂では、回生ブレーキにより電気が増えていきます(なんか得した気分になります)。この車でスキーに出かけた時、スキー場駐車場到着時点で充電率20%、そのまま充電せずに自宅到着時点で充電率50%、なんてこともありました。
⑤チープな装備
商用車ですから当たり前ですけどね、内外装ともにチープな印象は否めません。両面スライドドアやドアミラーは手動で、オプションでも電動の設定はありません。ボディーカラーは3色のみ。リアサスペンションはなんとリジット(板バネ)。まあ、「道具」と割り切れば逆に潔いかな、と最近は思えるようになりました。
(4)新型env200発表!
日産自動車は2018年4月19日、『e-NV200』を仕様向上し、注文受付を開始すると発表しました。発売は同年12月の予定だそうです。今回の仕様向上では、40kWhの大容量バッテリーの採用により、航続距離300km(JC08モード)を実現。バッテリー容量増により、「パワープラグ」の1000Wでの使用時間も従来の約8時間から約15時間へと拡大するとのこと。
新型リーフのバッテリーを流用するわけですが、実用可能航続距離はおそらく200km強くらいかと思われます。僕の使い方では旧型env200でも十分かな。それよりも車両本体価格が400万円オーバー! ファミリー層にとっては、セレナe-powerの方が魅力的なんじゃないの?
☆付記1 (H30.11.17)
5月にスタートした「道の駅車中泊の旅」は、現時点で東日本を制覇しました。僕のe-NV200の現在の走行距離は1万8千km強。購入時の走行距離が3千kmでしたので、半年間で約1万5千kmを走破したわけです。よく走ったね~。ここでは、半年間の使用で見えてきたこの車の「買ってよかった点」と「今後改善してほしい点」を振り返ってみたいと思います。
【買ってよかった点】
①「経済性」。何といってもこれが一番。僕は高速を使わないので、これだけ走って燃料代タダですからね。給電ポイントもよほどの辺境に行かない限り、本当にそこら中にある感じです。前着車があって待たなければならなかったこともほとんどありませんでした。ガソリン代高騰の折でもあり、旅の中で会った方々にもかなりうらやましがられましたよ。
②「高耐久バッテリー」。今年の夏の猛暑の中、リーフオーナーの方はかなりご苦労されたと思います。亀マークのクールダウンアラートが頻繁に起動し、「使えね~」とのぼやきの声があちこちで上がっていたと聞きました。e-NV200には、そもそもクールダウンアラート自体がありません。極端な酷暑の中ではややアクセルに気を使って運転していましたが、やはりバッテリークーラーのアドバンテージは大きいようです。現時点で、セグ欠け等のバッテリー劣化の兆候は見受けられません。
③「乗り心地」。トルクフルなモーターによる走行性能の良さは予想通り。意外だったのは、商用車用サスペンションということでやや心配だった乗り心地が、思いのほか良かった点です。リアサスが板バネですので、後部座席(僕は取っ払ってベッドを置いていますが)はかなりつらいものがあるでしょうが、運転席・助手席はモーターの静かさもあってエンジン車よりもはるかに快適です。運転中の居眠り対策にかなり気を使ったくらいでした。
【今後改善してほしい点】
①「遮音性」。商用車ですので仕方がないのですが、後部座席とカーゴスペースの屋根がほとんどむき出し状態のため、雨音がけっこう響きます。後部のベッドで寝ていると、外からの音が若干気になります(個人差があるでしょうけど)。逆に、カーオーディオの音量を上げていると、音が外部にダダ漏れになっていたりします。まあ、僕にとっては「どうしても何とかしたい」というレベルではありませんが…。
②「登坂時の消費電力」。リーフよりも車重がかなりあるせいで、登り坂でのバッテリーの減り方は尋常ではありません。標高差を加味しないと、ディスプレイに表示される走行可能距離がかなり違ってきます。今までの旅の中で、2回ほど電欠の危機に見舞われました。まあ、この大柄なボディだからこそ、快適な車中泊が可能なんですけどね…。
③「急速充電器の性能差」。日産ディーラーの40kwのものですと、残り1セグのバッテリー状態でも既定の30分で80%まで充電可能ですが、コンビニ等の20kwのものではちょっと…。タダで充電しておいて文句を言うのは図々しいかとも思いますけどね。今後整備されるであろう50kwタイプに期待しています。
☆付記2 (H31.2.5) 冬期のEVとの付き合い方
生まれて初めての電気自動車のオーナーとして、一冬を越そうとしていますが、巷でいわれている「EV は冬に弱い!」ということを実感しています。要するにリチウムイオンバッテリーが低温に弱いということですが、これはバッテリーの容量に関わらずの特性だと思いますので、EVの購入を検討されている方は、ぜひ参考になさってください。
①ヒーター(AC)を入れると、走行可能距離が極端に落ちる!
夏場のエアコンONでは1セグあたり12km程度の走行可能距離が、真冬でヒーターを入れると10kmを切るくらいまで落ち込みます。実に20%の能力低下です。急速充電器のインフラが整備されてきているので、極端に不便を感じることはないのですが、ちょっと遠出をするときなどはやや不安になります。
②ヒーターの効きが悪く、寒い!
僕のENV200は、運転席・助手席の後ろに透明なビニールで仕切りがしてあり、エアコン効率を上げるようになっているのですが、それでも寒い! ファンを最大くらいにしても寒い! シートヒーターやハンドルヒーターをONにしても寒い! 僕は暑さに弱く寒さに強いタイプなのですが、それでもこのように感じるということは、普通の人は大変だろうなと思います。
③低温の中では、充電効率が極端に落ちる!
40kwの急速充電器ですと、夏場は30分の充電で8~9セグ分の充電が可能なのですが、冬場は6~7セグ程度に落ちます。こちらも20%の能力低下です。電気が「入っていかない、入りづらい」という感じです。
☆付記3 (H31.8.12) 愛車の健康診断?
僕のe-NV200の現在の走行距離は、3万1千km強です。この時点での愛車のスペックを、内蔵されているデータログを基にご紹介します。
画像のピントが甘いですが、なにとぞご容赦を。最高速度106kmに平均車速27.5km。我ながらのんびり走っていますねえ。高速はほとんど使いませんので、こんなもんでしょう。
電費はなんと1kwhあたり7.8km! 自分でもかなり優秀なエコドライバーだと思っています。バッテリーの総電力量が24kwですので、満充電で187.2km走れる計算です。まあ、あくまでもデータ上ですけどね。実際に電欠の危機も数回経験していますので…。
回生ブレーキによる発電量は、全体の33%にも達しています。おそらく上限いっぱいではないかと。できる限りフットブレーキを使わない運転(危険かな?)を心掛けていますので、たまに嫁さんのエンジン車を運転すると、ちょっとした違和感を感じるようになってしまいました。
真夏の一般道を30分程度走行した後の、バッテリー温度です。温度計のちょうど真ん中。これが1時間以上の高速走行になると、1目盛り程度高温になります。やはりバッテリークーラーの恩恵でしょうか。
現時点でのバッテリー容量の状況です。ぱっと見では特に異常がないと見えますが、実は目盛り(セグ)が11しかありません。新車状態で12セグのはずですので、セグ欠けが発生しているわけです。悲しい…。まあ、4年落ち3万kmの個体ですので、想定の範囲内かな。それにしてもこの表示の見ずらさ! 日産さん、ワザとか? ワザとだよね!